この章では、Pythonの基本的な制御構文(条件分岐、ループ)と関数の定義方法について学びます。他の言語にも同様の機能はありますが、特にforループの振る舞いや、柔軟な引数の渡し方はPythonの大きな特徴です。これらの「Pythonらしい」書き方をマスターすることで、より簡潔で読みやすいコードを書けるようになります。
Pythonの条件分岐はif、elif(else ifの略)、elseを使って記述します。C言語やJavaのような波括弧{}は使わず、**コロン:とインデント(通常は半角スペース4つ)**でコードブロックを表現するのが最大の特徴です。
>>> score = 85
>>> if score >= 90:
... print('優')
... elif score >= 80:
... print('良')
... elif score >= 70:
... print('可')
... else:
... print('不可')
...
良
条件式にandやor、notといった論理演算子も使用できます。
>>> temp = 25
>>> is_sunny = True
>>> if temp > 20 and is_sunny:
... print("お出かけ日和です")
...
お出かけ日和です
Pythonのforループは、他の言語のfor (int i = 0; i < 5; i++)といったカウンタ変数を使うスタイルとは少し異なります。リストやタプル、文字列などのイテラブル(反復可能)オブジェクトから要素を1つずつ取り出して処理を実行します。これは、Javaの拡張for文やC#のforeachに似ています。
>>> fruits = ['apple', 'banana', 'cherry']
>>> for fruit in fruits:
... print(f"I like {fruit}")
...
I like apple
I like banana
I like cherry
決まった回数のループを実行したい場合は、range()関数が便利です。range(n)は0からn-1までの連続した数値を生成します。
>>> for i in range(5): ... print(i) ... 0 1 2 3 4
ループ処理の中で、要素のインデックス(番号)と値の両方を使いたい場合があります。そのような時はenumerate()関数を使うと、コードが非常にスッキリします。これは非常にPythonらしい書き方の一つです。
>>> fruits = ['apple', 'banana', 'cherry']
>>> for i, fruit in enumerate(fruits):
... print(f"Index: {i}, Value: {fruit}")
...
Index: 0, Value: apple
Index: 1, Value: banana
Index: 2, Value: cherry
whileループは、指定された条件がTrueである間、処理を繰り返します。ループを途中で抜けたい場合はbreakを、現在の回の処理をスキップして次の回に進みたい場合はcontinueを使用します。
>>> n = 0 >>> while n < 5: ... print(n) ... n += 1 ... 0 1 2 3 4
関数はdefキーワードを使って定義します。ここでもコードブロックはコロン:とインデントで示します。値はreturnキーワードで返します。
>>> def greet(name):
... """指定された名前で挨拶を返す関数""" # これはDocstringと呼ばれるドキュメント文字列です
... return f"Hello, {name}!"
...
>>> message = greet("Alice")
>>> print(message)
Hello, Alice!
引数と返り値に**型アノテーション(型ヒント)**を付けることもできます。これはコードの可読性を高め、静的解析ツールによるバグの発見を助けますが、実行時の動作に直接影響を与えるものではありません。
型アノテーションは 引数名: 型 のように記述し、返り値の型は -> 型: のように記述します。
>>> # typingモジュールからList型をインポート
>>> from typing import List
>>> def greet(name: str) -> str:
... """指定された名前で挨拶を返す関数"""
... return f"Hello, {name}!"
...
>>> message = greet("Alice")
>>> print(message)
Hello, Alice!
Pythonの関数は、非常に柔軟な引数の渡し方ができます。型アノテーションと組み合わせることで、どのような型の引数を期待しているかがより明確になります。
引数名=値の形式で渡します。順序を問わないため、可読性が向上します。>>> def describe_pet(animal_type: str, pet_name: str, owner_name: str = "Taro") -> None:
... # この関数は何も値を返さないため、返り値の型は None となります
... print(f"私には {animal_type} がいます。")
... print(f"名前は {pet_name} で、飼い主は {owner_name} です。")
...
>>> # 位置引数のみで呼び出し
>>> describe_pet("ハムスター", "ジャンボ")
私には ハムスター がいます。
名前は ジャンボ で、飼い主は Taro です。
>>> # キーワード引数で呼び出し(順序を逆にしてもOK)
>>> describe_pet(pet_name="ポチ", animal_type="犬")
私には 犬 がいます。
名前は ポチ で、飼い主は Taro です。
>>> # デフォルト引数を持つ引数を指定して呼び出し
>>> describe_pet("猫", "ミケ", "Hanako")
私には 猫 がいます。
名前は ミケ で、飼い主は Hanako です。
注意点: デフォルト引数を持つ引数は、持たない引数の後に定義する必要があります。
関数の引数の数が可変である場合に対応するための仕組みです。型アノテーションを使う場合は、typingモジュールからAnyなどをインポートすると便利です。
任意の数の位置引数をタプルとして受け取ります。型アノテーションでは *args: 型 のように表現します。
>>> def sum_all(*numbers: int) -> int:
... print(f"受け取ったタプル: {numbers}")
... total = 0
... for num in numbers:
... total += num
... return total
...
>>> print(sum_all(1, 2, 3))
受け取ったタプル: (1, 2, 3)
6
>>> print(sum_all(10, 20, 30, 40, 50))
受け取ったタプル: (10, 20, 30, 40, 50)
150
任意の数のキーワード引数を辞書として受け取ります。型アノテーションでは **kwargs: 型 のように表現します。どのような型の値も受け付ける場合は Any を使います。
>>> from typing import Any
>>> def print_profile(**user_info: Any) -> None:
... print(f"受け取った辞書: {user_info}")
... for key, value in user_info.items():
... print(f"{key}: {value}")
...
>>> print_profile(name="Sato", age=28, city="Tokyo")
受け取った辞書: {'name': 'Sato', 'age': 28, 'city': 'Tokyo'}
name: Sato
age: 28
city: Tokyo
lambdaキーワードを使うと、名前のない小さな無名関数を定義できます。
構文: lambda 引数: 式
>>> # 通常の関数で2つの数を足す
>>> def add(x: int, y: int) -> int:
... return x + y
...
>>> # ラムダ式で同じ処理を定義
>>> add_lambda = lambda x, y: x + y
>>> print(add_lambda(3, 5))
8
>>> # sorted関数のキーとして利用する例
>>> students = [('Taro', 80), ('Jiro', 95), ('Saburo', 75)]
>>> # 成績(タプルの2番目の要素)でソートする
>>> sorted_students = sorted(students, key=lambda student: student[1], reverse=True)
>>> print(sorted_students)
[('Jiro', 95), ('Taro', 80), ('Saburo', 75)]
この章では、Pythonの制御構文と関数の基本を学びました。他の言語の経験がある方にとって、特に以下の点はPythonの特徴として重要です。
{}の代わりにインデントでコードブロックを定義するため、自然と誰が書いても読みやすいコードスタイルになります。forループはイテラブルを巡る: for item in collection: の形が基本です。インデックスが必要な場合は、for i, item in enumerate(collection): のようにenumerate()を使うのがPythonらしい書き方です。*args, **kwargs) を使いこなすことで、非常に柔軟で再利用性の高い関数を作成できます。lambdaはコードを簡潔に保つのに役立ちます。これらの機能を理解し使いこなすことが、より効率的で「Pythonic(パイソニック)」なコードを書くための第一歩となります。
数値のリストが与えられたとき、そのリストに含まれる偶数とその**インデックス(位置番号)**だけを出力するプログラムを書いてください。
ヒント:
forループとenumerate()を組み合わせます。%(剰余)演算子を使って、2で割った余りが0になるかで判定できます (number % 2 == 0)。numbers: list[int] = [8, 15, 22, 37, 40, 51, 68]
python practice4_1.py(出力例) インデックス: 0, 値: 8 インデックス: 2, 値: 22 インデックス: 4, 値: 40 インデックス: 6, 値: 68
ユーザーのプロフィール情報を出力する関数 create_profile を作成してください。引数と返り値には型アノテーションを付けてください。
要件:
name(名前)はstr型で、必須の引数とします。age(年齢)と city(都市)はstr型で、キーワード引数として任意に受け取れるようにします。もし指定されなかった場合は、年齢は「秘密」、都市は「不明」と表示されるようにしてください。ヒント:
ageとcityにはデフォルト引数値を設定します。-> None です。def create_profile(
python practice4_2.py(出力例) --- プロフィール --- 名前: Tanaka 年齢: 秘密 都市: 不明 -------------------- --- プロフィール --- 名前: Sato 年齢: 32 都市: Osaka --------------------