プログラミングを進めていくと、コードは必然的に長くなり、一つのファイルで管理するのが難しくなってきます。機能ごとにファイルを分割し、再利用しやすく、メンテナンスしやすい構造にすることが、効率的な開発の鍵となります。この章では、Pythonでコードを整理するためのモジュールとパッケージという仕組み、そしてPythonの強力な武器である標準ライブラリの活用方法について学びます。
Pythonでは、1つの .py ファイルが1つのモジュールとして扱われます。モジュールを使うことで、関連する関数やクラスを一つのファイルにまとめ、他のプログラムから再利用可能な「部品」として扱うことができます。これは、他の言語におけるライブラリやソースファイルのインポート機能に似ています。
モジュールを利用するには import 文を使います。Pythonには多くの便利なモジュールが標準で用意されています(これらを標準ライブラリと呼びます)。例えば、数学的な計算を行う math モジュールを使ってみましょう。
>>> # mathモジュールをインポート >>> import math >>> # mathモジュール内の変数や関数を利用する >>> print(math.pi) # 円周率π 3.141592653589793 >>> print(math.sqrt(16)) # 16の平方根 4.0
出力:
3.141592653589793 4.0
毎回 math. と書くのが面倒な場合は、いくつかの書き方があります。
from ... import ...: モジュールから特定の関数や変数だけを取り込む
>>> from math import pi, sqrt >>> >>> print(pi) # 直接piを参照できる 3.141592653589793 >>> print(sqrt(16)) # 直接sqrtを参照できる 4.0
as (別名): モジュールに別名をつけて利用する
>>> import math as m >>> >>> print(m.pi) 3.141592653589793 >>> print(m.sqrt(16)) 4.0
注意 ⚠️:
from math import *のようにアスタリスク (*) を使うと、そのモジュールのすべての名前(関数、変数、クラス)が現在の名前空間にインポートされます。一見便利に見えますが、どの名前がどこから来たのか分からなくなり、意図しない名前の上書きを引き起こす可能性があるため、特別な理由がない限り避けるべきです。
自分でモジュールを作成するのも簡単です。関連する関数をまとめた .py ファイルを作成するだけです。ここからは複数のファイルが必要になるため、再びスクリプトファイルで説明します。
utils.py の作成:
まず、便利な関数をまとめた utils.py というファイルを作成します。
def say_hello(name):
"""指定された名前で挨拶を返す"""
return f"Hello, {name}!"
def get_list_average(numbers):
"""数値リストの平均を計算する"""
if not numbers:
return 0
return sum(numbers) / len(numbers)
# このファイルが直接実行された場合にのみ以下のコードを実行
if __name__ == "__main__":
print("This is a utility module.")
print(say_hello("World"))
avg = get_list_average([10, 20, 30])
print(f"Average: {avg}")python utils.pyThis is a utility module. Hello, World! Average: 20.0
if __name__ == "__main__":の重要性 この記述はPythonの定型句です。
- スクリプトが直接実行された場合、そのスクリプトの
__name__という特殊変数は"__main__"になります。- スクリプトがモジュールとして
importされた場合、__name__はファイル名(この場合は"utils")になります。 これにより、モジュールとしてインポートされた際には実行したくないテストコードやデモコードを記述することができます。他言語経験者にとっては、プログラムの「エントリーポイント」を定義するmain関数のような役割と考えると分かりやすいでしょう。
main.py からの利用:
次に、utils.py と同じディレクトリに main.py を作成し、utils モジュールをインポートして使います。
# 自作のutilsモジュールをインポート
import utils
greeting = utils.say_hello("Alice")
print(greeting)
scores = [88, 92, 75, 100]
average_score = utils.get_list_average(scores)
print(f"Your average score is: {average_score}")python main.pyHello, Alice! Your average score is: 88.75
このように、機能ごとにファイルを分割することで、コードの見通しが良くなり、再利用も簡単になります。
プロジェクトがさらに大きくなると、多数のモジュールを管理する必要が出てきます。パッケージは、複数のモジュールをディレクトリ構造で階層的に管理するための仕組みです。
パッケージは、簡単に言うとモジュールが入ったディレクトリです。Pythonにそのディレクトリをパッケージとして認識させるために、__init__.py という名前のファイルを置きます(近年のPythonでは必須ではありませんが、互換性や明示性のために置くのが一般的です)。
以下のようなディレクトリ構造を考えてみましょう。
my_project/
├── main.py
└── my_app/
├── __init__.py
├── models.py
└── services.py
my_app がパッケージ名になります。__init__.py は空でも構いません。このファイルが存在することで、my_app ディレクトリは単なるフォルダではなく、Pythonのパッケージとして扱われます。models.py と services.py が、my_app パッケージに含まれるモジュールです。main.py からこれらのモジュールをインポートするには、パッケージ名.モジュール名 のように記述します。
# パッケージ内のモジュールをインポート from my_app import services # servicesモジュール内の関数を実行 (仮の関数) # user_data = services.fetch_user_data(user_id=123) # print(user_data)
__init__.py には、パッケージがインポートされた際の初期化処理を記述することもできます。例えば、特定のモジュールから関数をパッケージのトップレベルにインポートしておくと、利用側でより短い記述でアクセスできるようになります。
# my_app/__init__.py
# servicesモジュールからfetch_user_data関数をインポート
from .services import fetch_user_data
print("my_app package has been initialized.")
このようにしておくと、main.py から以下のように直接関数をインポートできます。
# main.py # __init__.pyで設定したおかげで、短いパスでインポートできる from my_app import fetch_user_data user_data = fetch_user_data(user_id=123) print(user_data)
Pythonの大きな魅力の一つは、その「バッテリー同梱 (Batteries Included)」という哲学です。これは、Pythonをインストールしただけで、追加のインストールなしにすぐに使える膨大で強力な標準ライブラリが付属していることを意味します。
どんなライブラリがあるかを知るには、公式ドキュメントが最も信頼できます。
また、REPLの help() や dir() を使うと、モジュールの内容を簡単に確認できます。
>>> import datetime >>> # datetimeモジュールが持つ属性や関数のリストを表示 >>> dir(datetime) ['MAXYEAR', 'MINYEAR', '__all__', '__builtins__', ..., 'date', 'datetime', 'time', 'timedelta', 'timezone', 'tzinfo'] >>> >>> # dateクラスのヘルプドキュメントを表示 >>> help(datetime.date) Help on class date in module datetime: class date(builtins.object) | date(year, month, day) --> a date object | | Methods defined here: (ヘルプ情報が続く) ...
ここでは、日常的によく使われる標準ライブラリをいくつか紹介します。
os: オペレーティングシステムと対話するための機能を提供します。ファイルやディレクトリの操作、環境変数の取得などができます。
>>> import os
>>> # カレントディレクトリのファイル一覧を取得
>>> os.listdir('.')
['hello.py', 'utils.py', 'main.py']
>>> # OSに依存しない安全なパスの結合
>>> os.path.join('data', 'file.txt') # Windowsなら 'data\\file.txt'
'data/file.txt'
sys: Pythonインタプリタ自体を制御するための機能を提供します。コマンドライン引数の取得や、Pythonの検索パスの確認などができます。
>>> import sys >>> # Pythonのバージョンを表示 >>> sys.version # 環境により異なります '3.11.4 (main, Jun 7 2023, 10:13:09) [GCC 12.3.0]'
datetime: 日付や時刻を扱うための機能を提供します。
>>> import datetime
>>> # 現在の日時を取得 (実行時刻による)
>>> now = datetime.datetime.now()
>>> print(now)
2025-08-12 18:26:06.123456
>>> # 日時をフォーマットして文字列にする
>>> now.strftime('%Y-%m-%d %H:%M:%S')
'2025-08-12 18:26:06'
json: Web APIなどで広く使われているデータ形式であるJSONを扱うための機能を提供します。
>>> import json
>>> # Pythonの辞書型データ
>>> user = {"id": 1, "name": "Ken", "email": "ken@example.com"}
>>> # 辞書型をJSON形式の文字列に変換 (dumps: dump string)
>>> json_string = json.dumps(user, indent=2)
>>> print(json_string)
{
"id": 1,
"name": "Ken",
"email": "ken@example.com"
}
>>> # JSON形式の文字列をPythonの辞書型に変換 (loads: load string)
>>> loaded_user = json.loads(json_string)
>>> loaded_user['name']
'Ken'
これらの他にも、正規表現を扱う re、乱数を生成する random、HTTPリクエストを送信する urllib.request など、数え切れないほどの便利なモジュールが標準で提供されています。何かを実装したいと思ったら、まずは「Python 標準ライブラリ 〇〇」で検索してみると、車輪の再発明を防ぐことができます。
この章では、Pythonのコードが複雑になるにつれて重要性を増す、整理と再利用のテクニックを学びました。ここで学んだ概念は、小さなスクリプトから大規模なアプリケーションまで、あらゆるレベルのPythonプログラミングで役立ちます。
.py ファイルは1つのモジュールです。関連する関数やクラスをモジュールにまとめることで、コードを論理的な単位に分割できます。他のファイルからは import 文を使ってその機能を再利用できます。datetime (日時)、os (OS機能)、json (データ形式) など、すぐに使える便利なモジュールが豊富に揃っています。これらを活用することで、開発を大幅に効率化できます。四則演算を行うための自作モジュールを作成し、別のファイルから利用してみましょう。
calculator.py というファイルを作成し、以下の4つの関数を定義してください。
add(a, b): aとbの和を返すsubtract(a, b): aとbの差を返すmultiply(a, b): aとbの積を返すdivide(a, b): aをbで割った商を返す。ただし、b が 0 の場合は「ゼロで割ることはできません」という文字列を返すようにしてください。practice5_1.py というファイルを作成し、作成した calculator モジュールをインポートします。practice5_1.py の中で、calculator モジュールの各関数を少なくとも1回ずつ呼び出し、結果を print 関数で表示してください。def add(a, b):
python practice5_1.py(出力例) 10 + 5 = 15 10 - 5 = 5 10 * 5 = 50 10 / 2 = 5.0 10 / 0 = ゼロで割ることはできません
標準ライブラリの datetime と json を使って、簡単な日報データを作成するプログラムを書いてみましょう。
datetime モジュールを使って、現在の日付を YYYY-MM-DD 形式の文字列として取得します。author: あなたの名前 (文字列)date: 手順2で取得した日付文字列tasks: その日に行ったタスクのリスト (例: ["会議", "資料作成", "メール返信"])json モジュールを使い、手順3で作成した辞書を人間が読みやすい形式 (インデント付き) のJSON文字列に変換します。print 関数で表示してください。ヒント: datetime.datetime.now() で現在時刻を取得し、.strftime('%Y-%m-%d') メソッドで日付をフォーマットできます。json.dumps() の indent 引数を指定すると、出力がきれになります。
import datetime import json
python practice5_2.py(出力例)
{
"author": "山田 太郎",
"date": "2025-08-17",
"tasks": [
"Pythonのモジュール学習",
"練習問題の実装",
"チームミーティング"
],
"status": "完了"
}